不憫なこども ~秘密のデート 5

2012.02.11 12:06|溺れる恋
何もない真っ暗な闇で、

夜空を眺めた晩。

わたし達の街に戻り、

コインパーキングを探した。


線路脇に車を停め、

あの人が、不埒なことを思いついた。



「なあ」

「終電まで、時間あるな」

しばらくの間、濃厚に抱き合ってみた。

車の中というのは、窮屈なものだ。

「ねえ、ここでするのって相当大変だよね」

「そやな」

「趣味が悪い」

「我慢するのも相当ツライもんや」

「可笑しいね」

「我慢してるの」

「もう、限界のニ歩手前や」

そういって、したい気持ちは、週末まで我慢することにした。

「ここじゃあ」

「頭がぶつかるし」

「無駄に体がデカいのも、考えものや」

「抱きしめることに、集中や」

誰も通らない。

薄暗がりの、線路脇。



あの人は、この時間が過ぎることを、怖がった。

もうすぐ、明日になる。

明日は誰にでも、来る。

「これも現実、あれも現実、それも現実、どれも現実」

暗闇の先を見つめながら、

わたしは呟く。

「ああ、どれも現実や」

「いつも」

「手の平からこぼれ落ちる気がして、怖いんや」

「この時間が」

わたしは、

「いつも」

「いつか」

「誰かに、取り戻されるかと思うと」

「怖い」

と言った。



「取り戻される」

視線がハンドルに向くと、

「か」と付け足した。

「取り戻される、か」


「ごめんな」

あの人は、いつも、謝る。

それが、わたしは、嫌いだ。



しかし、それが現実だ。




車を一番安かったパーキングに停めた。

「ここは、月極めに、してくれるんやろか」

「車、持ってこよか、まだ迷っている」

現実では、出来もしないこと。

それでも、大真面目に思案している。

「お小遣いで」

「賄えるの、維持費」

「そうや、それが、問題や」

「電車で」

「いいじゃない」

「行けるところにすれば」

「そやな」

「なあ」

「赤い袋のパン。車やから潰れる心配ないな」

話題を逸らす。



あの人は、

自分の置かれている現状では、

どうにもこうにも身動きが取れないことには、

意図的に話を逸らす。

もう慣れた。

これがベッドの上なら、

わたしを落ち着かせることが、容易くできるけれど。



あの人の部屋の近くに、大きめな公園がある。

鉄棒に、砂場。

ブランコ。

滑り台。

ギッタンバッコン。

それに、ジャングルジム。

公園の定義にぴったりの空間だ。

欠点は、道のように、人が横切ること。

黒い革のバッグを放り投げると、

ジャングルジムの天辺へ登った。

「よく登れるなあ」

わたしは身軽だ。

「入学式の翌日、ここから真下に落ちたの」

「鼻血出したまま、這いずり出てね」

「普通に走って教室に入ったという、伝説がある」

「想像できるなあ」

ぶら下がりながら、また身軽に少し降りた。

あの人の、頭と同じ高さ。

「視界が全然違う」

わたしの頭より、30㎝高い世界。

視界がこんなにも、違うとは、

思わなかった。

見えないものが、見える。

見たくないものも、見えるのか。

「なあ、見えない分は」

「オレが見るから、ええんや」

「ふふ」

少し、笑って飛び降りた。

ハイヒールの、つま先が痛い。

公園で遊ぶには、

不似合いな二人。

滑り台の上に座りピッタリとひっつき合う。


「時間が過ぎるのが怖いのは」

「治った?」

「怖がりなのは、子供の頃からや」

「いつもギリギリの線や」

「生きることも」

「働くことも」

「なにもかも」


「でも、結婚したのは一番乗りじゃん」

と言いたかったけれど、止めた。

「連敗続きのあたしより、イイじゃない」

「今も負け試合か」

「そうかも」

「本当は、どうなんだろう」

「負けたらいけない」

「そう考えることは、疲れちゃうから」

「そういう陳腐なことは、流すことにした」

「ねえ」

「あなたは、わたしを」

「100%満たしてくれないでしょう」

「いつも、半分以上は、違うでしょう」

「だけどね、初めから、負け試合だから」

「余計、攻撃したくなる」

「それで謝る、あなたを見て」

「自分に、言い聞かせる」

「謝る姿が、現実なんだとね」

「これも現実」

「悲しいかな現実」

「すべて現実」

「前を見ろって」


「よいしょ」

立ちあがり、砂をパンパンと払った。

手を大きく広げて、口から出た言葉。


「もうどこかで野垂れ死にしたい」

「通り魔でもいいから」

「誰か」

「殺してくれないかな」


刹那的。

自ら死を選ぶほどの勇気もない。

振り返り、潤んだ目を見つめた。

「毎朝、駅横のビルを見上げるの」

「ここから飛び降りたら」

「でもね、ああ、痛いんだろうな」

「死ぬ前に、空を見上げるなんて」

「悠長なことは、きっと出来ないだろうって」

「富士急ハイランド」

「ジェットコースターより、もっと、怖いんだろうな」

「なあ」


「そんなに苦しいんか」

「そんなに辛いんか」


「オレが原因やね」

「なあ」

「オレ、離れた方が」

「ええんやろうか」


結局、采配は、あの人が握る。

手持ちの駒を、

動かすのは、あの人。


「ばか」

「どうして、そこで、逃げちゃうの」

「結局放り出して、お終い」

「振ってとか」

「振るとか」

「離れてなんて、言っていないでしょう」


「なあ、オレ努力する」

「努力するから」

「お願いや」

「そんな悲しいこと、考えんでくれ」

「お願いや」

「考えんでくれ」


勝ち組の驕り。

冷めた夫婦だけれど、

結局は、世の中の、

驕り高ぶる部類の人達なのだ。

そうして、

驕り高ぶる理由は「こども」

時に「こども」は、

最強の武器になる。

手持ちの駒の中の、最強の武器。


あの人は、

「こども」が不憫でならないのだ。

「あの人の努力」

わたしのためでは無い。

「こども」ため、ということは、お見通しだ。


それにしても、わたしの悪い癖だ。

ナイフを突き付け、選択を迫る。

怯えた相手は、仕方なく、当座の答えを出す。

そろそろわたしの心も、

ネジが緩んできたようだ。

この小さなしあわせも、

ネジが緩めば、脆くも、崩れ去る。


「ねえ、努力してね」

「わたしだけを、見つめて」

「心のネジが、緩んで、落ちてしまわぬように」

「ねえ」


秘密のデートをした晩の、締めくくり。

わたし達は、

気持ちを探り合い、

お互いを傷つけ合い、

落ち込んで、

また、微笑む。

恋というのは、なんて残酷なのだろう。

残酷だから、

止められない。

「なあ、努力する、から」

「離れていかないでくれ」

「なあ」

「頼む」

わたしは、優越感で満たされ、

終電に乗った。

あの人に見送られ。






    にほんブログ村 ランキング参加中■
    にほんブログ村 恋愛ブログ 忘れられない恋愛へ
    にほんブログ村
    にほんブログ村 恋愛ブログ 女の本音・女心へ
    にほんブログ村
    にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
    にほんブログ村

    人気ブログランキングへ


    関連記事

    テーマ:好きだからこそつらいんだよ
    ジャンル:恋愛

    tag:公園 現実 コインパーキング 大人の恋 遠距離恋愛 失恋

    コメント:

    非公開コメント

    04 ← 2012/05 → 06
    -
    - - 1 2 3 4 5
    6 7 8 9 10 11 12
    13 14 15 16 17 18 19
    20 21 22 23 24 25 26
    27 28 29 30 31 - -
    リンクリストに追加

    最新コメント

    今日のメッセージ

    月の開運法

    月の開運法ブログパーツはJavaScriptを有効にする必要があります。

    カウンター

    検索フォーム

    メールフォーム

    名前:
    メール:
    件名:
    本文:

    RSSリンクの表示

    小鳥たちが飛び回る(Twitter連携可能)ブログパーツ

    Author: キャシュリーヌ
    “ プロフィール ”

    キャシュリーヌ

    Author:キャシュリーヌ
    恋の価値観は千差万別であるなら、その恋の「正否」はさまざまな答えがあるはず。
    だから「それも」「あれも」「どれも」恋には違いないのです。
    ☆御挨拶のページも御覧ください☆

    恋に悩む人に向けた「私小説的」なブログです。
    アメブロで書いていた内容に訂正加筆をしての投稿となります。
    どうぞご感想をお寄せ下さい。
    また恋愛のアドバイスも出来る範囲でお答えします。

    尚、このブログは事実に基づくフィクションであり、
    実在の人物・地名・団体・事件などにはいっさい関係ありません

    “ 最新記事 ”

    “ ブログ村参加してます ”

    “ ポチッが励みになります ”

    “ 全記事表示リンク ”

    全ての記事を表示する

    “ カテゴリ ”

    “ 月別アーカイブ ”

    “ リンク ”

    “ 恋は招くもの ”

    “ 二人の時間を過ごすなら ”

    “ 恋に似合う香り ”

    “ ブロとも申請フォーム ”

    この人とブロともになる