恋と時間と嘘の関係
体調を崩した記憶が無い。
睡眠時間も4、5時間程度取れば良い方で。
時間を削ってでもあの人に逢いたい気持ちが勝っていた。
可笑しなもので、そういった生活をしていると、
仕事での評価も高まるのが不思議だ。
いつもより足早に訪れた秋。
埠頭から客船が出航するのが珍しく並んで写真を撮った。
あの人は道行く男性に撮影を頼んだ。
二人の表情はどことなく疲れてはいる。
当たり前だ。
昼前から河の横の大きな街で、秘密の場所に籠っていたから。
けれども瞳は輝き軽快で、楽しげに。
先行きは見えない関係だけれど無理やり希望を持っていた。
あの人はタフな男だった。
仕事で移動する日々。
それでも「恋」をする男は時間をやり繰りするものだ。
「時間がない・・・」
お付き合いする男がそう言ったなら「離れたい合図」で、
もしくは「適当な距離を置いた関係で居たい」と思っているはずだ。
「時間は作るもの」
「恋」をしている最中は。
1時間、否、30分でも。
「逢いたいんや」
「少しでも、逢えないか」
そう言わせる女でないとならないと思う。
それが恋の初期だけであっても。
いずれ熱が冷める頃。誰もが面倒にはなってくるものだ。
その時には自分も熱が冷めているから問題はない。
あの人は、わたしのスケジュールと生活スタイルをすぐに把握した。
それに合わせて時間のやり繰りをする。
そして、わたしはあまり「詮索はしない」と決めていた。
けれど「都合のイイ女」で居るつもりは無かった。
西に居るであろう「存在」より優位でありたいという陳腐な考えがあった。
何時からか、あの人は一日のスケジュールを朝メールでくれる様になる。
月曜日。二人の時間に移動のスケジュールを伝えてくれる。
それをオフィスで見て、わたしは好きなようにすればいい訳だ。
二人の波長と気分が一定のところで重なっているから、
概ね、問題は発生しない。
夏、あの人は咳の続く風邪がなかなか治らないでいた。
二人の休日にも「薬袋」を欠かさないくらいの風邪だ。
それでもタフな体は弱る気配を見せない。
丈夫な男はそれだけで魅力的だ。
思うに、雌としての野生の本能がわたしにも備わっていたのかもしれない。
近頃の雄は頭脳労働で得てくる「餌」の狩り方は知っている。
しかし、肉体労働で鍛えてはいないから本当の「餌」の狩り方を知らない。
だから丈夫な男はそれだけでモテるのだと思う。
わたしは「丈夫な」だけでは飽き足らない。
最近の雌は学がある。
だから頭脳労働も出来、尚且つ、丈夫な男が良いのだ。
そういう点であの人は自分で卑下するほど悪くはなかった。
当時のわたしには丈夫な男が必要だったから。
しかし、あの人の様なタイプの男は大概二十代で結婚する。
子供を儲けていると決まっている。
肉体も頭脳も結婚生活に適しているのだから。
タフな男も一日に与えられる時間は同じだ。
神様は平等に二十四時間という時間を与えた。
そして疲れを感じずに居るのは表向きだけであって
体の奥底から免疫力を奪っていく。
濃厚な関係を始めた頃、素直な心根の男には
「嘘」で帳尻を合わせる生活は・・・。
辛かったのだと思う。
狂おしい恋。
溺れる恋。
あの人は嘘に包囲された生活を強いられる。
というより、自分から強いていたのだから仕方がない。
独り身のわたしは嘘をつく機会は少ない。
けれど嘘をつき出したら・・・。
それで塗り固められた感情になった。
あの人に酷いことをした。
「嘘つきは泥棒の始まり」
わたしはあの人の平穏な生活を盗み取る。
それらを気がつかない程度に盗んでいく。
一度嘘をついた。
笑えるほど簡単に。
けれども、その後はどんな嘘も容易くつけるようになってしまった。
罪悪感の欠片も見えないほど容易いことなのだ。
「あの人も嘘をつくことが簡単になってしまったのだろうか」
わたしは呟く。
「嘘つきは泥棒の始まり」と。
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