大きな勘違い
大きな勘違いに気付いた。
西に窓がある部屋からは、
世界で一番美しい山が見える。
イマドキ風に言えば「EAST TOKYO」
普通に言えば、「下町」
空に近い所に住んでいれば、
寒さが厳しい晴れた日は、雪の帽子を目深に被った山が、
毎日拝めるものなのだ。
大阪の街が、ずっと「海の方にある」と思っていた。
東京湾の上空を、無数に飛び交う飛行機。
それを眺めては、搭乗ゲートで立っている、わたしの姿が、頭によぎる。
だから、大きな勘違いに気付きもせずに居た。
「おかしいなあ、地理は得意だったはずなのに」
思わず苦笑い。
東京湾の彼方には、
大きく騒々しい街ではなく、
大きな海が広がる。
島々が並び、太平洋が南には広がっているのだ。
さらに苦笑い。
世界一の電波塔と、世界一美しい山との間に
太陽が沈んでいく。
季節が変わるたび、左から右へと沈む位置が変わる。
「西から昇ったお日さまが東へ沈む」
また苦笑い。
茜色に染まる方角に、あの人の住む街がある。
わたしは「地図が読めない女」の典型で、
地下鉄から地上に出ると、途端に自分の居場所が分からなくなる。
感覚の中に「方位磁石」は欠片も存在しない。
幸いに、あの人が住む街を、
見当違いな方角に存在させていたはずだ。
男という生き物は、わたしの持ちえない「方位磁石」が
頭の中に標準装備されている。
だから、あの人は、わたしの存在している街を通り過ぎるたび、
苦しい時間を消し去らねばならない。
「北はどっち?」と聞くと、
大きな瞳で左上を一瞬見ると、
おもむろに「あっちやろ」と指す。
違う出口を使っても、初めての場所へ行っても
方位磁石は北を指す。
わたしは、ぐるぐると針が定まらず、途方に暮れる。
苦笑いが多すぎて、本当に笑ってしまった。
冬型の天気が続く。
明日から、早朝の青い山と、茜色に染まる山。
それを眺めては、あの人を思い出すのだろう。
苦笑い。
わたしは、本当に地図が読めない女の典型だ。
それに、男の気持ちを読めない女の典型でもある。
明日から、西を眺めることが、憂鬱になる。
きっと。
だから、まだしばらくは、
大きな勘違いをしておこう。
大阪という街は、
海の方にある。
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