秘密のデート 3

2012.02.06 18:40|溺れる恋
「目的地周辺です。案内を終了します」

「よく出来たナビや」

そう言うと、Rにギアを入れた。 ☆1はコチラをクリック☆

意図も容易く枠に車を入れた。

「すごーい」

「すごくない」

「ああ、いつも斜めやろ」

「窓から目視しても、斜めになるやろ」

「当たり」

「きっと、バックモニター有っても、曲がるんやろな」

そして、二人で笑った。


暗くなった公園を歩く。

暗くなければ、

夜景は楽しめない。

正面に、展望台がある。

平日の夜。

ポツリポツリと人が居る。

港町の夜景は、

思ったより、美しかった。

「きれいや」

「なんや、人多いな」

「あっち行ってみよ」

考えそうなことは分かる。

「ねえ、なんかヘンなこと考えてるでしょ」

「悪いか」

橋の手前の「ベストビュースポット」も満席だ。

そこを通り過ぎると、数個ベンチがあった。

しかもキレイな夜景が一望できる。

不埒なあの人は、満足気だ。

「寒いな」

そしてベンチに並び、

抱き合いながら夜景を観た。

「なあ、このまま」

「ずっとこうして、居たい」

「いつもな、部屋のベランダで」

「タバコも止めたのにな」

「ちょっとだけ見える、星見ながらなあ」

「考えるんや」


「Hなことでしょ?」

「悪いかあ」

「まあ、そんなのもあるんやけど」

「君と、一緒に居るときは」

「なんでこんなに、穏やかになるんやろか」

「あたしも同じ」

「そうか」

「オレのこと、嫌いにならんでくれ」

「嫌いになるようなこと」

「しなければいい」

「それだけ」

「そやな」

そうして、

他のベンチと同じように、ずっとキスをし続けた。

夜景というのは、

人恋しくさせる。

不思議な力を持っている。

一粒一粒の小さい光は、

集まると途轍もないエネルギーとなる。

まるで、星空。

「そろそろ、いこか」



車を出してそのまま道なりに進む。

右手に外人墓地があって、左手に洋館が並ぶ。

あの人が、静かになった。

フェリス女学院を過ぎると、

山手の教会がある。

「ココ、ユーミンが結婚式した教会」

「そうなんや」

ノリが悪い。

「車停めて」

「なんや」

「どうしたの?元気ないね]

「運転、代わろうか」

左から覗きこむと、察することができた。

この時間が、過ぎることが、淋しいのだ。

「夜景に酔わされたかもな」

現実に戻そうとしているようだ。

「これも現実、あれも現実」

「それも、現実」

「どれも現実」

「皆、まとめて、全部、現実」


「そうやな」

「叱られた犬みたい」

「目がうるうるして」

「また、犬ゆうた」

「犬と言った・・でしょ」

「あげ足とるんやない」

そうしてご褒美にキスをあげた。

便利なご褒美だ。

叱られた犬には、ご褒美が必要だ。


イタリア山公園の上あたりを通り過ぎ

右の坂を下る。

「信号を右、右の坂下って」

「ここはどこや?」

「石川町」

「首都高くぐって真っ直ぐ」

スタジアムが見える。

「そこ右」

「次の信号、左」

市役所のあたりには、

なぜか「パーキングメーター」が多い。

「お茶しようよ」

「そやな」

角のビル。

スターバックスがある。

わたしの行きつけだ。

ここらの店舗では、一番雰囲気がよいと思う。

「ねえ、このスタバも落ちつけるでしょう」

「そやな」

「客層ちゃうか」

「そうだね」

わたしは役所絡みの仕事が多かった。

だから官庁街には、毎週足を運ぶのだ。

そして、ここでハウスブレンドを飲みながら

あの人に、メールを入れる。

「このあたりで、仕事してるんや」

「結構重たい仕事やな」

「どんなことも、きっと上手くできる、女やな」

「そんなこと、きっと、ないと思う」

「いや、十分すぎる程、なんでも上手くこなせるはずや」

どんなことも?

それは一体、何を指しているのだろう。

あの人は、わたしに、家庭的なことは、全く要求はしない。

要求されたとしても、困る。

要求されたとしても、する場所もないけれど。

わたしの存在も含め、この街自体が「非現実的」なのだろう。

「なあ、家事の段取りが悪い女性はなあ」

「事務させても、段取り悪いと決まっとるんや」

「それ、当たってると、思う」

あの人の予言は的中していた。

わたしは、主婦としても、いい仕事ができる女だった。


「ねえ、お腹空かない?」

「そやな、飯食ってないな」

大きな公園を歩いて横切り、

加賀町警察の角を曲がる。

中華街大通りにでた。

早足で歩くわたしの横に、あの人並ぶ。

「ねえ、軽く麺を食べようよ」

「一任する」とため息を漏らす。

わたしの好きな「高菜ラーメン」の店を目指す。

中華街にも、日本人好みの店もある。

「コレなんて普通のラーメンっぽいでしょ」

「ああ、しかも美味い」

「よかった」



車に戻り、高架下をくぐり右に曲がる。

「ねえ、あの先で車停めて」

「ちょっと中で、待ってて」

まだ開いていた。

品数は少なかったけれど。

「はい、明日食べて」

「フランスパンや」

小さめのブールがあった。

それにチーズが入ったもの。

それを食べやすいよう、半分に切ってもらった。

「カバンに入るでしょ」

「ああ、朝食にする」

ポンパドールのフランスパン。

ゴロゴロとしたチーズが入っている。

この男はこういった「小さなこと」に、

心から喜ぶ。

些細なことに。

「いちいち面倒なのに」といった顔を全くしないのだ。

殆どの男が「面倒なのに」と思うことを。

それは「わたしも無条件」で、してもらっていることであって、

だから「無条件に返すことができる」のだ。

「重たいけど、後ろのカバン取ってくれへん?」

「はーい」

「赤いビニールの袋」を丁寧にビジネスバッグへ入れた。

「また、新しい事を知ってしもうた」

「それは、それは、良いことですね」

「第一京浜と第二京浜の違いやろ」

「夜景がよく見えるベンチやろ」

「落ち着いたスタバやろ」

「美味いラーメン」

「それに、チーズが入ったパン」

「可笑しい」

「そうやろ、いいおっさんが、可笑しいやろ」

そして、二人で笑った。

「明日、車で食べたら」

「そうする」

まだ、夜が深まるには、早い。

「なあ、もうちょいドライブしよう」

わたし達を乗せた車は、

まだ深まっていない夜を走る。

窓を下げると、

風は、秋と冬の匂いがした。


☆続く☆






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    tag:公園 ポンパドール スターバックス 夜景

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